内皮細胞とレーシック

レーシックの存在が一般的に認知されるようになってきましたが、詳しい内容やメリット、リスクなどをきちんと把握していない方もまだまだいるようで、「レーシックで失明した人がいるらしい」「眼科医はレーシックを受けないらしい」などといった、根拠のない情報を書いているWebサイトを見かけることがあります。眼科医が適切に行ったレーシックで失明した症例は報告がありませんし、レーシックを受けている眼科医もたくさんいます。
また、レーシックについて噂だけで話をしているそのようなWebサイトの中に、「レーシックを受けると内皮細胞が少なくなり、白内障の手術が受けられなくなる」という記述を見かけたことがあります。これは、まったくの誤解です。
「しっかりわかるレーシックの基本 」の「(2)レーシックの意義」でもお話ししましたが、内皮細胞の減少はコンタクトレンズを使用している人に顕著に見られる症状で、レーシックはこのような症状を防ぐ意味でも意義のある矯正法です。
というのも、角膜の内皮細胞が減ってしまう一番の原因は、酸素不足だからです。コンタクトレンズを装用していると、どんなに酸素透過性の高いレンズを使っていても、目と空気の間に壁ができているため、角膜に供給される酸素の量が少なくなります。コンタクトレンズのケアを適切にしていれば、ただちに角膜障害が起きるような酸素不足は発生しませんが、裸眼の人に比べると内皮細胞は確実に早く減少していきます。
内皮細胞は、多かれ少なかれ誰の目でも減少していき、再生能力がないので増えることはありません。しかし、裸眼で過ごしている分には、視力に障害が出るほどに内皮細胞が減少することはありません。生まれた時の内皮細胞の数は1平方ミリメートルあたり4000個ほどで、20歳代で約3000〜3500個、80歳代でも2000個以上を保ちます。内皮細胞が減っていくと角膜が濁る恐れがあり、およそ1000個を切ると失明の危険性も出てくると言われていますが、正常な目ではなかなかこの数字を下回ることはないわけです。
これが、コンタクトレンズを長年装用している人の目では、通常よりも早く減少していきます。20歳から20年間コンタクトレンズを装用してきたある方の症例では、40歳時の内皮細胞の数が1平方ミリメートルあたりおよそ2200個だったそうです。これは、正常な目では8〜90歳くらいの内皮細胞数です。コンタクトレンズの性能や個人個人の装用法にもよるので、この症例だけを見て細胞数をどうこう言うことはできませんが、コンタクトレンズの装用で内皮細胞の減少が早くなることは、医学的に証明されている事実です。
これに対して、レーシックを受けた方は裸眼で過ごすことができますから、角膜が酸素不足になることはありません。したがって、レーシックを受けた後に内皮細胞が通常より早く減ることはありません。
では、レーシックの手術による内皮細胞への影響はどうなのでしょうか。
まず、手術以前に内皮細胞の数が1000〜2000個以下にまで減っている方は、レーシックを受けることができません。レーシックでは、角膜の上層部にフラップと呼ばれるフタをつくり、これを術後に元の位置に戻しますが、このフラップがはがれずに安定するためには、内皮細胞の働きが欠かせません。内皮細胞は、角膜内部の水分を眼球の内側へとくみ出し、角膜の水分量を調節しています。この、角膜から水分をくみ出す働きのおかげで、フラップは吸い付けられて、やがて固着するのです。ですから、内皮細胞が少ないと、術後にフラップが安定しない恐れがあるために手術が受けられません。
次に、角膜を切ってフラップを作ることや、角膜をレーザーで削ることによる内皮細胞への影響ですが、直接的な影響はありません。レーシックのフラップは、角膜の最も表面にある角膜上皮とその下にあるボーマン膜を避け、さらにその下にある角膜実質層という、角膜で最も厚い層を切って作ります。また、レーザーで削るのもこの部分です。その角膜実質層の下にあるデスメ膜(層)の、さらに内側に位置する内皮細胞に触れることはありません。したがって、レーシックの手術に内皮細胞を直接傷つける要素はありません。
そして、角膜を切り、削ったことによる間接的な影響ですが、角膜が大気中の酸素を取り込む際には、涙を介して角膜上皮細胞から酸素を取り込んでいます。レーシックでは、角膜上皮を温存していますので、酸素の供給源と内皮細胞への経路は確保されており、酸素不足を起こすとは考えられません。また、PRKでは角膜上皮をはがしてしまいますが、上皮細胞は内皮細胞とは逆に強い再生能力を持っていますので、数日で新生した後は通常通り酸素を供給できますし、それまでの期間も患部周辺の角膜上皮が酸素を取り込むため、長期的な問題はありません。
以上のように、レーシックによって角膜が酸素不足になることはありません。「レーシックを受けると内皮細胞が少なくなり、白内障の手術が受けられなくなる」というのは、まったくの誤解です。そのような恐れがあるのはコンタクトレンズであって、内皮細胞を健康に保つことができる点は、むしろレーシックのメリットなのです。
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